∅(「自分」)

自分自身が学びつつも、思考を整理しているなかで「後を追わせてください」、「研究への姿勢尊敬します」、といった言葉に知らないうちに押しつぶされそうになっていた。まだなれていない自分の姿に、僕という人間が当てはめられていることへの罪悪感ばかりが募っていく一方だった。

言葉における〈仮面〉と〈顔〉の区別ができていなかった自分の咎ではある。とはいえ、そのような「すごい人」という形で表出された自分から、僕自身の存在は否応なしに疎外されていく。僕は焦る。苛立つ。そのような心の循環に、自分が回されていく。

洞穴の心に留まるものは日々なくなっていった。その代わり、そこにはひたすら肥えていくばかりの「すごい人」という虚像、〈僕〉という怪物が常に棲んでいた。誰も求めていなかた存在だったはずだ。なのに、僕の中でどんどん成長していく。僕も普通の人でしかないはずだったのに。